元世界王者を70秒で倒す。無敗の世界王者を2回で3度倒す。強敵との12回を勝ち抜き、階級を上げてまた王座を集める。そして2022年6月、米老舗専門誌「ザ・リング」のPFP(パウンド・フォー・パウンド)ランキングで、日本人初の1位に到達した。階級の違いを超えて「誰が最強か」を問う評価でも、世界の頂点に立ったのだ。井上尚弥の戦績には、勝利数だけでは伝え切れない興奮がある。誰に挑み、どんな技術で勝ち、何を成し遂げたのか。モンスターのすごさを、一試合ずつ刻んでいきます。
最新の記録|中谷潤人戦に判定勝利
2026年5月2日、東京ドーム。井上尚弥は中谷潤人との12回戦を判定3–0で制し、世界スーパーバンタム級4団体王座を防衛しました。スコアは116–112、116–112、115–113。通算戦績は33戦33勝、27KO/TKOとなりました。
この試合の意味:無敗の挑戦者との大一番を勝ち切ったこと。KOの決着力だけでなく、競り合う試合で調整し、12回を通じて勝利をつかむ力も記録に残る一戦です。
井上尚弥のプロ全戦績一覧
新しい試合から順に掲載。結果とともに、キャリア上の意味を一行で記録しています。
| 戦 | 試合日 | 対戦相手 | 結果 | この試合の意味 |
|---|---|---|---|---|
| 33 | 2026/05/02 | 中谷潤人 | 12回 判定3–0勝利 | 無敗同士の対決を制し4団体王座防衛 |
| 32 | 2025/12/27 | アラン・デビッド・ピカソ | 12回 判定3–0勝利 | 2025年4試合目の王座防衛 |
| 31 | 2025/09/14 | ムロジョン・アフマダリエフ | 12回 判定3–0勝利 | 元統一王者を判定で退ける |
| 30 | 2025/05/05 | ラモン・カルデナス | 8回 KO/TKO勝利 | ダウンから立て直し米国で防衛 |
| 29 | 2025/01/24 | キム・イェジュン | 4回 KO/TKO勝利 | スーパーバンタム級4団体王座防衛 |
| 28 | 2024/09/03 | TJ・ドヘニー | 7回 KO/TKO勝利 | スーパーバンタム級4団体王座防衛 |
| 27 | 2024/05/06 | ルイス・ネリ | 6回 KO/TKO勝利 | 初のダウンから逆転・東京ドーム |
| 26 | 2023/12/26 | マーロン・タパレス | 10回 KO/TKO勝利 | 2階級で4団体統一達成 |
| 25 | 2023/07/25 | スティーブン・フルトン | 8回 KO/TKO勝利 | スーパーバンタム級で4階級制覇 |
| 24 | 2022/12/13 | ポール・バトラー | 11回 KO/TKO勝利 | バンタム級4団体統一 |
| 23 | 2022/06/07 | ノニト・ドネア | 2回 KO/TKO勝利 | 再戦で決着・3団体統一 |
| 22 | 2021/12/14 | アラン・ディパエン | 8回 KO/TKO勝利 | バンタム級統一王座防衛 |
| 21 | 2021/06/20 | マイケル・ダスマリナス | 3回 KO/TKO勝利 | ボディ攻撃で決着 |
| 20 | 2020/11/01 | ジェイソン・モロニー | 7回 KO/TKO勝利 | ラスベガスで統一王座防衛 |
| 19 | 2019/11/07 | ノニト・ドネア | 12回 判定3–0勝利 | WBSS優勝・WBAとIBF統一 |
| 18 | 2019/05/19 | エマヌエル・ロドリゲス | 2回 KO/TKO勝利 | WBSS準決勝・IBF王座獲得 |
| 17 | 2018/10/07 | ファン・カルロス・パヤノ | 1回 KO/TKO勝利 | WBSS初戦を70秒で決着 |
| 16 | 2018/05/25 | ジェイミー・マクドネル | 1回 KO/TKO勝利 | バンタム級で3階級制覇 |
| 15 | 2017/12/30 | ヨアン・ボワイヨ | 3回 KO/TKO勝利 | スーパーフライ級で7度目の防衛 |
| 14 | 2017/09/09 | アントニオ・ニエベス | 6回 KO/TKO勝利 | 米国のリングで王座防衛 |
| 13 | 2017/05/21 | リカルド・ロドリゲス | 3回 KO/TKO勝利 | WBOスーパーフライ級王座防衛 |
| 12 | 2016/12/30 | 河野公平 | 6回 KO/TKO勝利 | 元世界王者との対戦 |
| 11 | 2016/09/04 | ペッバーンボーン・ゴーキャットジム | 10回 KO/TKO勝利 | WBOスーパーフライ級王座防衛 |
| 10 | 2016/05/08 | デビッド・カルモナ | 12回 判定3–0勝利 | 12回を戦い判定勝利 |
| 9 | 2015/12/29 | ワーリト・パレナス | 2回 KO/TKO勝利 | WBOスーパーフライ級王座防衛 |
| 8 | 2014/12/30 | オマール・ナルバエス | 2回 KO/TKO勝利 | スーパーフライ級で2階級制覇 |
| 7 | 2014/09/05 | サマートレック・ゴーキャットジム | 11回 KO/TKO勝利 | 世界王座初防衛 |
| 6 | 2014/04/06 | アドリアン・エルナンデス | 6回 KO/TKO勝利 | プロ6戦目で世界初戴冠 |
| 5 | 2013/12/06 | ヘルソン・マンシオ | 5回 KO/TKO勝利 | OPBFライトフライ級王座獲得 |
| 4 | 2013/08/25 | 田口良一 | 10回 判定3–0勝利 | 日本ライトフライ級王座獲得 |
| 3 | 2013/04/16 | 佐野友樹 | 10回 KO/TKO勝利 | 国内上位選手との対戦 |
| 2 | 2013/01/05 | ガオプラチャン・チュワタナ | 1回 KO/TKO勝利 | プロ2戦目 |
| 1 | 2012/10/02 | クリソン・オマヤオ | 4回 KO/TKO勝利 | プロデビュー |
数字で見る「モンスター」のすごさ
33戦全勝、27試合を途中決着
通算33勝のうち27勝がKO/TKO。KO率は81.8%です。ただし、KO率だけで選手の強さが決まるわけではありません。どの相手に、どの階級で、どんな内容で勝ったかも合わせて見ると、その実績が伝わります。
4階級で世界王座を獲得
ライトフライ級、スーパーフライ級、バンタム級、スーパーバンタム級で世界王座を獲得。階級が上がり相手の体格や戦い方が変わっても、勝利を重ねてきました。
2階級で4団体統一――男子史上2人目の偉業
バンタム級の4王座をそろえ、翌年はスーパーバンタム級でも統一。新階級ではわずか2試合、どちらも途中決着でした。主要4団体時代の男子で2階級以上の統一達成者は、確認時点でクロフォード、井上、ウシクの3人。その希少さと、ほかの達成者を詳しく見る。
逆境と判定勝利も、強さの記録
ネリ戦やカルデナス戦ではダウンから立て直して勝利。ドネアとの初戦や中谷戦では12回を戦って勝ち切りました。圧倒する試合と、対応力が問われる試合の両方を残していきます。
2階級で4団体統一――井上尚弥は男子史上2人目
TWO-DIVISION UNDISPUTED CHAMPION
世界王者になる。その階級の4王座をそろえる。
階級を上げて、もう一度。
| 選手 | 統一した階級 | 2階級目の達成 |
|---|---|---|
| テレンス・クロフォード | Sライト級(2017)・ウェルター級(2023) Sミドル級(2025)で3階級へ |
2023年7月 |
| 井上尚弥 | バンタム級(2022) Sバンタム級(2023) |
2023年12月 |
| オレクサンドル・ウシク | クルーザー級(2018) ヘビー級(2024) |
2024年5月 |
各階級で4本をそろえる。それを、別の階級でも成し遂げる
ボクシングにはWBA・WBC・IBF・WBOという主要4団体があり、同じ階級に複数の世界王者が並ぶことがあります。4団体統一とは、その4団体の王座を一人が同時に持つこと。いずれかの団体で世界王者になる実績に加えて、他団体の王者との統一戦を実現し、王座をそろえる必要があります。井上はバンタム級でこれを達成し、階級を上げたスーパーバンタム級でも成し遂げました。
難しさは、強さだけでは越えられない
統一には、王者同士の対戦で勝つ力に加え、プロモーターや放送契約、各団体の指名試合、開催時期などを調整する必要があります。王座を集める途中で負ければ、その道のりは途切れる。階級を上げれば体格も距離も変わり、王座は新たに獲得しなければなりません。一つの階級で築いた優位をそのまま持ち越せないからこそ、2階級での達成は希少です。
2022年はバンタム級。2023年は新階級の2試合で統一
2022年12月13日、バトラーを11回で倒してバンタム級4団体統一。翌2023年7月25日は、スーパーバンタム級初戦でフルトンを8回TKOで破りWBC・WBO王座を獲得しました。12月26日にタパレスを10回KOで破ってWBA・IBF王座も獲得。新階級ではわずか2試合、しかも両方を途中決着で勝って主要4団体の王座をそろえました。 [タパレス戦と4王座の獲得/WBA]
ほかの達成者は? クロフォード、そしてウシク
男子の主要4団体時代に2階級以上で4団体統一を達成した選手は、2026年10月1日の確認時点でクロフォード、井上、ウシクの3人です。井上は2023年12月に、クロフォードに続く男子史上2人目として到達しました。その後、ウシクが2024年に加わり、クロフォードは2025年に3階級目の統一へ進んでいます。 [男子初の2階級達成/ギネス世界記録] [達成者一覧の照合] [クロフォードの3階級目/WBA]
「4階級制覇」と「2階級4団体統一」は別の偉業
4階級制覇は、異なる4つの階級で世界王座を獲得した実績。2階級4団体統一は、異なる2つの階級で主要4団体の王座をすべてそろえた実績です。井上のすごさは、この両方を成し遂げたこと。挑戦する階級の広さと、その階級で王座を集め切る深さを併せ持っています。
記録の範囲
ここでの「史上2人目」「3人」は、男子・主要4団体時代・2階級以上での達成という条件です。女子にはシールズ、テイラーらの複数階級での達成例があり、男女を合わせた人数ではありません。また、旧来の団体数が少ない時代の統一王者や、同じ階級での再統一は別に扱います。井上が2階級の8王座を同時に保有した、という意味でもありません。
「強い相手としか戦わない」――戦績を貫く信条
無敗の数字に、強敵の名前を刻む
「強い相手としか戦わない」。この姿勢があるから、井上の戦績は何度でも読み返したくなる。無敗のロドリゲスに挑み、ドネアと激闘を演じ、そのドネアともう一度拳を交える。勝利を重ねるほど、相手の名前が記録の重みになる。プロ転向時に強い選手との対戦を求めた考えは、本人へのインタビューでも語られている。 [本人インタビュー/NewsPicks]
信条を、王座統一への挑戦として記録する
相手選びには指名試合、契約、負傷などの事情も関わります。それでもWBSSへの参戦や他団体の王者との統一戦は、強敵との対戦を求める姿勢を具体的に語れる場面です。この言葉を単なる決めぜりふで終わらせず、ロドリゲス、ドネア、フルトンらとの試合に結びつけて記録していきます。
WBSS優勝――世界王者たちの戦場を、井上尚弥が勝ち抜いた!
まず、この顔ぶれを見てほしい
WBAのバーネットと井上、IBFのロドリゲス、WBOのテテ。そこに、複数階級で世界王座を獲得してきたドネア、元WBAスーパー王者パヤノ、無敗のモロニー、アマチュアの世界で実績を積んだアロイヤンが加わる。2018年に出場が決まった8人は、王座を持つ者、王座を奪い返したい者、ここから世界へ駆け上がりたい者。その全員が、同じトーナメントの頂点を狙っていた。 [出場8選手の発表/Boxing News]
王者が4人。元王者も、無敗の挑戦者もいる
ライアン・バーネットは当時無敗のWBAスーパー王者。ゾラニ・テテは長い距離から相手を捉えるWBO王者。エマヌエル・ロドリゲスは無敗のIBF王者。そして井上もWBA王者として参戦した。WBAの2種類の王座を含む4人の現役世界王者がそろった顔ぶれだ。さらにドネアとパヤノは、世界の頂点を知る実力者。モロニーは当時無敗のIBF指名挑戦者、アロイヤンはアマチュアで磨いた技術を持ち込んだ。名前を並べるだけで、この大会の重みがわかる。 [当時の王座・ランキング/WBA]
勝ち続けなければ、次の王者には会えない
WBSSは一敗すれば終わる勝ち抜き戦だ。肩書きが立派でも、過去の名勝負があっても、次へ進むには目の前の相手に勝つしかない。井上が実際に破ったのはパヤノ、ロドリゲス、ドネアの3人。全出場者と戦ったわけではない。それでも、世界王者や強豪が集まった山を勝ち上がり、最後に立ったのが井上だったという事実は動かない。
初戦・パヤノ戦|元世界王者が、70秒で崩れた
2018年10月7日。パヤノは、世界王座を獲得した経験を持つサウスポーだ。相手の動きも距離も読み合うはずの初回、その勝負がわずか1分10秒で終わった。井上の左ジャブから右ストレート。速さだけでは説明できない。届く距離、踏み込むタイミング、相手の反応を捉える精度が、一つの連打に凝縮されていた。元王者を70秒で倒す。その短さこそ、両者の駆け引きを制した鮮烈さだった。 [パヤノ戦の結果/WBSS大会記録]
準決勝・ロドリゲス戦|無敗のIBF王者を、2回で3度倒す
2019年5月18日、日本時間19日。英国グラスゴーで待っていたのは、19戦全勝のIBF王者ロドリゲスだった。初回には互いの技術がぶつかる。だからこそ、2回の決着に驚かされる。井上はこの回に3度のダウンを奪い、王者を止めた。無敗の世界王者に、世界王者のまま対峙して、この勝ち方をする。ここに「モンスター」と呼ばれる理由がある。 [準決勝の展開/ESPN]
海外有力メディアも個人ファンも、すっかり虜に
ESPNが伝えたのは、無敗のIBF王者が2回で3度倒されたという圧倒的な内容だった。海外のファンの間でも、井上の強さと決勝への期待が語られた。次はどんな相手に、どう勝つのか。試合が終わった瞬間から、次の試合が待ち遠しくなる。ロドリゲス戦は、そんな興奮を海の向こうまで届けた一戦として振り返りたい。 [当時の海外ファンの反応/Reddit]
決勝には、あのドネアがいた
トーナメントの反対側を勝ち上がったのはノニト・ドネアだった。バーネット戦は相手の負傷による途中終了。準決勝では、負傷で欠場したテテに代わるステフォン・ヤングを破った。大会には離脱も代役もあった。しかし決勝のドネアが、井上にとって危険な強敵だったことは、その12回が証明している。左フックの威力、経験、勝負どころで踏み込む胆力。井上の圧勝を期待していた人にも、ボクシングの厳しさを突きつける相手だった。 [大会の経過・代替出場/WBSS大会記録]
圧倒する強さも、耐えて勝つ強さも。だから、この優勝はすごい
パヤノ戦では一瞬を捉える精度。ロドリゲス戦では無敗の王者を崩し切る決着力。ドネア戦では負傷と強打に対応し、11回にダウンを奪って12回を勝ち抜く力。3試合を並べると、井上の強さが立体になる。2019年11月7日、判定3–0でWBSS優勝。ムハマド・アリ・トロフィーを手にしたのは、破壊力だけでなく、厳しい試合を勝ち切る力も示した井上尚弥だった。 [決勝の試合報道/Boxing News]
WBSSの頂点から、4団体統一への道は続く
当時のWBC王座は大会の外にあり、テテも途中で欠場した。WBSS優勝は4団体統一そのものではない。だからこそ井上の歩みは、ここで完結しなかった。2022年のドネア再戦でWBC王座を加え、バトラー戦でWBO王座を獲得する。WBSSでつかんだ頂点から、さらに王座を集め切る挑戦へ。この続きがあることも、井上のキャリアのすごさだ。
ドネアとの2試合――死闘を越えた王者が、再戦で見せた進化!
第1戦|2019年11月7日:傷を負いながら頂点をつかむ
ドネアの左フックは、世界の強豪が警戒してきた武器だ。それを2回に受け、井上は右目の視界に問題を抱える。後に骨折も明らかになった。それでもリングの上では、次のパンチが飛んでくる。見え方が変われば距離の感覚も変わる。その状況で戦い方を調整し、勝負を続けた。ここで見たいのは、負傷そのものを称賛することではなく、苦境に対応した技術と判断だ。 [試合後の本人談/Boxing News] [負傷の公表/Boxing News]
11回のボディ、そして12回を戦い抜いた勝利
ドネアの強打に脅かされながらも、井上は11回に左ボディでダウンを奪いました。決着は判定3–0。スコアは116–111、117–109、114–113です。KOで圧倒する姿が注目されてきた井上が、思い通りにならない試合でも勝利をつかんだ一戦。WBSS優勝の価値は、トロフィーとともに、この対応力にあります。 [公式スコアとダウンの記録/JBC]
第2戦|2022年6月7日:世界王者として戻ったドネアを2回で止める
2年7カ月後の再戦は、同じ相手との単純な再現ではありません。ドネアはWBC世界王者として戻り、井上のWBAスーパー・IBF王座と合わせた3団体統一戦になりました。井上は1回終了間際にダウンを奪い、2回にも攻勢を重ね、1分24秒でTKO勝利。初戦で12回を要した相手を、再戦では2回で止める。しかも相手は、WBC王座を奪い返して戻ってきたドネアだ。この対比を見てほしい。あの激闘を経験した王者が、もう一度同じ強敵に向き合い、今度は鮮烈な決着をつけた。 [再戦の結果・展開/Boxing News]
2つの勝ち方を並べると、進化が見える
初戦では逆境に対応する力。再戦では相手の危険な武器を警戒しながら、自分の攻撃で短期決着へ持ち込む力。結果の違いだけで成長のすべてを証明できるわけではありませんが、同じ強敵との2試合は、井上の引き出しと進化を伝える格好の記録です。ドネアへの敬意とともに振り返りたい、2つの大きな勝利です。
WBSS優勝の夜、トップランク契約! 世界へ広がるモンスターの舞台
WBSS優勝の夜に開いた、次の舞台
2019年11月7日、ドネアとの決勝を制した井上は、米国の大手プロモーター、トップランクとの複数年契約を発表しました。日本で築いた実績を、米国の興行と放送の舞台へつなぐ節目です。すでに2017年に米国で試合をしていたため、ここでいう「本格進出」は米国初試合ではなく、継続的に世界へ届ける体制の拡大を意味します。 [契約発表/日刊スポーツ]
世界が見る強さから、世界が買う試合へ
強豪を倒す。世界がその試合を見る。そして次の試合を待つ。その期待を大きな興行へつなぐのがプロモーションだ。WBSS優勝の夜に発表されたトップランク契約は、井上の強さを米国の興行・放送の舞台へ届ける大きな節目だった。日本のリングで生まれた興奮が、国境を越えて次の試合への期待になる。モンスターの舞台は、こうして広がっていった。
リングの強さが、世界の市場を動かす――報酬から見るモンスター
| 選手 | 2024年 | 2025年 |
|---|---|---|
| 井上尚弥 | 4200万 | 6200万(世界25位) |
| 大谷翔平 | 7250万 | 1億250万(世界8位) |
| タイソン・フューリー | 1億4700万 | — |
| オレクサンドル・ウシク | 1億2200万 | — |
| サウル・アルバレス | 7300万 | — |
2020年モロニー戦:無観客でも1試合100万ドル
2020年10月、大橋秀行会長はモロニー戦のファイトマネーが100万ドルだと明らかにしました。報道当時の換算で約1億500万円。コロナ禍の無観客試合でも、この報酬が用意されたことは、軽量級の井上に大きな興行価値が認められていたことを伝える具体例です。これは1試合の報酬で、年間収入や手取り額ではありません。 [大橋会長の説明/デイリースポーツ]
大谷翔平と同じ年・同じ調査で比べる
Sporticoの2025年年間収入ランキングを伝えた報道では、井上は推計6200万ドルで世界25位。大谷翔平は1億250万ドルで8位でした。井上の額は大谷の約60.5%。野球の世界的スターと同じ比較表に、スーパーバンタム級のボクサーが入る。大谷の名前のそばで、軽量級の井上の数字を読める。この事実に、胸が熱くなる。拳で積み上げた勝利が、世界のスポーツビジネスでも大きな存在感になっている。 [2025年の順位と推計額/共同通信配信] [同年の収入報道/日刊スポーツ]
世界の大型スターと比べても見える、軽量級の存在感
比較対象を2024年のSportico調査にそろえると、井上は4200万ドル。フューリーは1億4700万ドル、ウシクは1億2200万ドル、カネロは7300万ドルでした。さらに大谷は7250万ドル。同じ年の推計を並べることで、大型興行を担う世界のボクサーやMLBスターとの距離が見えます。井上の額は2024年から2025年に約47.6%増えた計算ですが、実収入の増加を確定する数字ではなく、各年の調査推計の比較です。 [世界のボクサーの2024年収入/Sports Illustrated] [井上・大谷の2024年収入/日テレNEWS]
比較の読み方:強さと稼ぐ力は、別の軸で記録する
年間収入には競技報酬とスポンサー収入などが含まれます。井上の6200万ドルすべてを「ファイトマネー」と呼ぶことはできません。また大谷の大型契約には後払いがあるため、契約総額を年数で割った額とも区別します。数字は米ドルにそろえ、税引き後の手取りや個別試合の報酬へ換算しません。競技の優劣を収入で決めるのでなく、「強さが世界的な関心と経済的価値につながっている」という別の角度から、そのすごさを記録します。
モンスターの道を開いた3試合――世界初戴冠からWBSSへ
世界王者になる。長く君臨した王者を倒す。そして、強豪が集うトーナメントへ乗り込む。井上尚弥は一つの勝利を、次の大きな挑戦につなげてきた。後のWBSS優勝、4団体統一へと続く道は、どこで開けたのか。初期の3試合を、その前後の変化とともに振り返る。
2014年4月6日・エルナンデス戦|「期待の新人」が、6戦で世界王者になった
この時の井上は、まだプロ5戦を終えた20歳。日本王座、東洋太平洋王座を手にしていても、世界王者に勝てるかはこれから証明する段階だった。初の世界挑戦で、井上はWBCライトフライ級王者アドリアン・エルナンデスを6回TKOで破る。プロ6戦目の世界王座獲得は、当時の日本最短記録だった。
ここで変わったのは、井上の立場そのものだ。世界への期待を背負う新人が、世界王座を持ち、挑戦を受ける側になった。しかも、王者の反撃を受けながら自分の攻撃で決着をつけている。早く世界戦を組めたというだけでなく、その舞台で勝ち切った。この初戴冠が、同じ年のさらなる階級挑戦へつながっていく。 [初戴冠の試合報道/Boxing News]
2014年12月30日・ナルバエス戦|11度防衛の名王者を、わずか2回で倒す
最初の世界王座を獲得してから、まだ9カ月足らず。井上はフライ級を飛び越え、スーパーフライ級へ上がった。待っていたのは、WBO同級王座を11度守ってきたオマール・ナルバエス。フライ級での16度防衛も合わせ、二つの階級で長く勝ち続けてきた王者だ。その相手から井上は4度のダウンを奪い、2回KO。プロ8戦目で2階級制覇を成し遂げた。
この勝利は、井上の強さを測る物差しを変えた。世界王座を獲得する早さに加え、長期政権を築いた王者をどこまで圧倒できるのか。そこまで語れる実績が生まれたのだ。本人も試合後、減量の負担が軽くなり力を発揮できたと説明している。階級を上げることが、持ち味をさらに生かす選択にもなる。その可能性を示し、以後7度の防衛を重ねるスーパーフライ級時代を開いた一戦だった。 [ナルバエス戦の内容と本人談/Boxing News]
2018年5月25日・マクドネル戦|112秒の戴冠から、王者同士の勝ち抜き戦へ
スーパーフライ級で7度防衛しても、望んでいた他団体王者との統一戦は実現しなかった。井上は減量面も考慮し、バンタム級へ進む。初戦で挑んだWBA王者ジェイミー・マクドネルを1回1分52秒で止め、3階級制覇を達成した。新しい階級の王者を倒すまで、わずか112秒だった。
キャリアの転機は、その直後のWBSS参戦表明にある。王座を獲得した井上の前に、他団体の王者や強豪と同じトーナメントで頂点を争う道が開けた。統一戦を実現できずにいた時期から、勝ち進めばさらに強い相手と向き合える舞台へ。新階級での戴冠と、求めていた強敵との対戦がつながった。ここからパヤノ、ロドリゲス、ドネアとの3連戦が始まる。 [階級転向の背景とWBSS参戦表明/Boxing News]
この先の挑戦は、WBSSで王者・強豪を破った3試合、ドネアとの2度の対決、2階級4団体統一への道へと続いていく。
階級別の歩み
ライトフライ級|国内王座から世界初戴冠へ
日本・OPBF王座を経てWBC世界王座を獲得。プロ初期の基礎を築いた時期です。
スーパーフライ級|WBO王座を7度防衛
ナルバエス戦で王座を獲得し、2017年まで防衛を重ねました。
バンタム級|WBSS優勝から4団体統一へ
マクドネル戦で3階級制覇。WBSS、ドネアとの再戦、バトラー戦を経て主要4団体を統一しました。
スーパーバンタム級|4階級制覇と統一王座防衛
フルトン戦、タパレス戦で王座を統一。その後の防衛戦を、このページで継続して記録します。
基本プロフィールとアマチュア戦績
井上尚弥(大橋ジム)
1993年4月10日生まれ。愛称は「モンスター」。2012年10月2日にプロデビューしました。
アマチュア時代
アマチュア通算81戦75勝6敗、48KO/RSC。プロ戦績とは分けて掲載します。RSCはレフェリーによる試合停止を指します。
集計方法・出典
公式プロ試合のみを対象とし、アマチュア・エキシビション・延期または中止された試合は含めません。KO率はKO/TKO勝利数÷全試合数×100で、小数第1位に丸めています。日付は日本時間に統一しています。「この試合の意味」と解説は編集上の整理です。


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